例えば今日、世界から春が消えても。
でも、僕は。


「…さくら、会いに来たよ」


墓の側面をそっと撫で、呼び掛ける。


僕は、いつまでも君を愛し続けるよ。



3人の中で、僕だけが結婚していなかった。

“さくらと一緒に生きる”

彼女と交わした約束は、ずっと守り続ける。



高校を卒業した僕は、他県の大学に進学して叔母達との縁を切った。


大学在学中には何人もの女性に言い寄られたけれど、僕は、頑として首を縦に振らなかった。

だって、僕が愛しているのはさくらただ1人だから。



元から理系だった事も幸いし、今の僕は医療に携わる職についている。


あれから30年も経ち、医療も随分と発展した。


さくらが亡くなる原因となった白血病は“治る病”となり、年齢に関わらず完治率は95%を超えている。


それでも、病魔に侵された子供達は生きる希望を失いかけている事もあって。


そんな時、僕は伝えるんだ。

笑顔になれば幸せは舞い込んでくるよ、と。



高校生の頃、あれだけ死にたいと思っていた自分がここまで生きている事は今でも信じられない。


この30年、色々な事があった。

辛くて、さくらの元に行きたくなった事もあったけれど、

その度に、失われた春を見た。


冬も終盤となる3月、梅雨が始まる4月、暑さを感じ始める5月。


それらは全て、過去のさくらが生きていた証。
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