例えば今日、世界から春が消えても。
「…やば、私達の高校何にも変わってないね。創立何年なんだろう」


「さあ?改修工事とかしてるだろうけど、60年くらいなんじゃね?」


寺を後にした僕達は、30年前に毎日のように通っていた見慣れた通学路を歩いていた。


遠くの方に見える母校を目にしたエマが、感慨深げに吐息を漏らす。


立ち止まった彼女を追い越した僕は、ぽつりと呟いた。


「30年、あっという間だったね」


目の前に姿を現したのは、高校生の頃を思い出すあの歩道橋。


さくらに初めて下の名前で呼ばれて、手を振って別れて、告白後に泣きじゃくる彼女を抱き締めて、独りで歩道橋を渡って彼女の家まで行った。


沢山の思い出が蘇る、大切な場所。


目を凝らせば、歩道橋から若き日の彼女が手を振っているのが見える気がして。



「…でも、飯野との日々は昨日の事みたいに思い出せる」


いつの間にか横に立った大和が、僕の肩に手を回す。


「サクちゃん、元気にしてるかな」


歩みを進め、僕達と肩を並べた現役モデルが大きく息を吸って広い空を見上げた。


雲の隙間から覗く青の向こうにはさくらが居る。

と、顔を上げた僕がそんな事を考えた矢先。


「……あれっ?」


急に、エマが素っ頓狂な声をあげたんだ。
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