例えば今日、世界から春が消えても。

｢え、…？｣

つーっ、と、片目から一筋の涙を流したんだ。


｢ちょ、どうしたの｣


それは、彼女の対角線上に居る大和にも見えたようで、彼は困惑気味な声を上げた。


｢あっ、あれ？どうしたんだろう、あー、これが想像以上に美味しかったからかな？嘘、ちょっと辛過ぎたのかも、｣


大和の声で我に返ったらしい彼女は、あれ？、と首を傾げながら涙を手で拭いた。


彼女は笑顔になろうとしているのに、その声は明らかに震えていて。


｢これそんなに辛かった？わーっ、何でそんなに泣くの？ほら、ティッシュ｣


何も出来ずに固まる僕の代わりに、エマが苦笑しながら彼女にティッシュを渡し、手でパタパタと彼女の顔を仰ぎ始めた。


｢んー…ごめん、どうしたんだろ、｣


ティッシュで目元を押さえた彼女は普段通りに振る舞おうとしているものの、それが逆に涙を助長させているようで。


｢サクちゃんが韓国料理食べて泣いちゃうなら、もしも本場のアメリカ料理食べに行ったら号泣して呼吸困難起こしちゃうんじゃない？｣


飯野さんの背中を擦りながらそう言ったエマは、

｢サクちゃん。高校卒業したらさ、一緒にアメリカ行こうよ！そこで今よりももっと美味しいもの食べるの。絶対楽しいよ！｣

原因不明で泣き始めた彼女を落ち着かせるべく、明るい話題で笑わせようとする。