例えば今日、世界から春が消えても。
「ママが、10年経って高校生になった私が、1番の青春を楽しむのを見てみたかったって泣いてたの。…目は瞑ってたけど、全部聞こえてた」
あははっ、と、彼女は乾いた笑い声をあげる。
無理をしているのが丸分かりだった。
「それでね、誕生日に家族がケーキを買ってきてくれた時。食べれないのにロウソク付けられて、吹き消す力も残ってないのに…それでも頑張って、願ったの」
7歳を迎えた飯野さんの誕生日は、例年とは違う雰囲気の中で執り行われたそうだ。
母親は泣きじゃくるあまり気を失いかけ、父親は涙で視界が霞んでカメラのシャッターを切れなかった。
そんな中。
『桜や春なんて要らないから、
あと10年だけでいい、生きさせて下さい。
ママの言っていた青春を、味わわせて下さい』
桜と同じ寿命しか生きられない運命だった彼女の願いは、誰よりも何よりも切実なもので。
「そうしたら、その数時間後、…“あれ”が始まったの」
「桜が消えた、あれか…」
飯野さんの説明で思い出すのは、桜の蕾が風も無いのに地面に落下していくおぞましい光景。
彼女は、ぎゅっと口を引き結んで頷いた。
「最初は、その現象が私の願いと関係してるなんて思わなかった。…でも、その直後から病気が良くなっていったの。余命宣告の期間を超えて数値も安定して、呼吸器も外せて、車椅子にも乗れた」
あははっ、と、彼女は乾いた笑い声をあげる。
無理をしているのが丸分かりだった。
「それでね、誕生日に家族がケーキを買ってきてくれた時。食べれないのにロウソク付けられて、吹き消す力も残ってないのに…それでも頑張って、願ったの」
7歳を迎えた飯野さんの誕生日は、例年とは違う雰囲気の中で執り行われたそうだ。
母親は泣きじゃくるあまり気を失いかけ、父親は涙で視界が霞んでカメラのシャッターを切れなかった。
そんな中。
『桜や春なんて要らないから、
あと10年だけでいい、生きさせて下さい。
ママの言っていた青春を、味わわせて下さい』
桜と同じ寿命しか生きられない運命だった彼女の願いは、誰よりも何よりも切実なもので。
「そうしたら、その数時間後、…“あれ”が始まったの」
「桜が消えた、あれか…」
飯野さんの説明で思い出すのは、桜の蕾が風も無いのに地面に落下していくおぞましい光景。
彼女は、ぎゅっと口を引き結んで頷いた。
「最初は、その現象が私の願いと関係してるなんて思わなかった。…でも、その直後から病気が良くなっていったの。余命宣告の期間を超えて数値も安定して、呼吸器も外せて、車椅子にも乗れた」