例えば今日、世界から春が消えても。
彼女が白血病だったというくだりは本当のはずで、彼女の“あと10年生きたい”という願いは、余命宣告を受けた患者なら誰でも思う事ではないだろうか。
そう考えると、彼女が今生き長らえている事と春が消失した事は、やはり何の関連性も無いような気がする。
でも、あんなに素直で正直者の彼女が、泣きながら笑えない嘘をつくものなのだろうか。
自分が一方的に感情をぶつけてしまった事と頭の中に渦巻く疑問を解決するには、僕が彼女に謝るしか手段はないのに。
弱虫な僕は相手の様子を伺うだけで、その一歩を踏み出せずにいた。
「ねえ」
その時、いきなり大和が僕の机を叩いて来たから、僕の肩がびくんと跳ねる。
「ん?」
僕の前の席に座っていた彼は、真っ直ぐに切れ長の目をこちらに向けてきた。
「トイレ」
「…ん?」
彼の口が人間に投げ掛けるべきではない単語を紡いだから、僕は目を瞬かせて固まる。
飯野さんの事を考えていたからか、まだ頭が上手く回らない。
「だから、トイレって言ってんの。お前も来いよ」
そんな僕を見て大きく溜め息をついた彼は、僕の机に手をついて立ち上がった。
「え?1人で行けばい」
「煩いなぁ、お化け居たらどうするんだよ」
僕に最後まで言いたい事を言わせず、大和はむんずと僕の右腕を掴んで立ち上がらせた。
そう考えると、彼女が今生き長らえている事と春が消失した事は、やはり何の関連性も無いような気がする。
でも、あんなに素直で正直者の彼女が、泣きながら笑えない嘘をつくものなのだろうか。
自分が一方的に感情をぶつけてしまった事と頭の中に渦巻く疑問を解決するには、僕が彼女に謝るしか手段はないのに。
弱虫な僕は相手の様子を伺うだけで、その一歩を踏み出せずにいた。
「ねえ」
その時、いきなり大和が僕の机を叩いて来たから、僕の肩がびくんと跳ねる。
「ん?」
僕の前の席に座っていた彼は、真っ直ぐに切れ長の目をこちらに向けてきた。
「トイレ」
「…ん?」
彼の口が人間に投げ掛けるべきではない単語を紡いだから、僕は目を瞬かせて固まる。
飯野さんの事を考えていたからか、まだ頭が上手く回らない。
「だから、トイレって言ってんの。お前も来いよ」
そんな僕を見て大きく溜め息をついた彼は、僕の机に手をついて立ち上がった。
「え?1人で行けばい」
「煩いなぁ、お化け居たらどうするんだよ」
僕に最後まで言いたい事を言わせず、大和はむんずと僕の右腕を掴んで立ち上がらせた。