例えば今日、世界から春が消えても。
…いや、そんな事を言っている時点から、頭が悪い事が見え見えなのだが。

でも、彼の推理は確実に的を射ている。


「まあ、喧嘩っていうか、…ちょっとあって」


「ほら見たことか」


傍から見たら野球部のような容姿の彼は、勝ち誇ったように笑う。


「んで?どっちが悪いんだよ」


「……」


「まさか感情的になって何か言ったとか、そんな事は、」


「……」


「お前に非があんじゃねーか!」


無言を貫いていたのに全てを理解してしまった彼は、サッカーボールを勢い良く僕に投げながら叫んだ。


「あっぶな、」


「お前なぁ、何でそんな事したんだよ?自分が悪かった事は自覚してんだろ?」


既のところでボールをキャッチした僕の耳に、大和の呆れた様な声が聞こえてくる。


ボールを見つめたまま、僕は微かに頷いた。


「なら、潔く謝れよ」


僕の過去を知っている大和は僕を色眼鏡で見ずにストレートに意見するから、それに幾度もなく助けられて来た。

そしてきっと、今回も。


「何があったか聞かないけど、ちゃんと謝れよ。なっ?」


先程よりは柔らかな口調で、大和は僕の手からボールを奪い返す。


「俺、親から貰った『プライドを捨てろ。でも、希望は捨てるな』って言葉をモットーにしてるんだけどさ」


その言葉は、僕も何度か彼の口から聞いた事がある。
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