例えば今日、世界から春が消えても。

いのちの春

放課後。


誰も居なくなった教室で、僕と飯野さんは気まずい雰囲気を作り出していた。


遠くからはサッカー部の掛け声が聞こえてきて、教室内では時計が時間を刻む音が聞こえる。


僕は窓に背中をへばりつけて立ち、飯野さんは自席に座ってこちらを見ていた。


｢あの、さ｣


このギクシャクした空気の中、口を開いたのは僕だった。


｢…うん｣


飯野さんは、俯き加減のまま声を出す。


｢この間は、ごめん！｣


｢ごめんなさい！｣


一息に謝罪の言葉を述べて頭を下げた瞬間、飯野さんの口から飛び出た同じ意味合いの言葉が鼓膜を震わせた。


｢…え？｣


驚いて顔を上げると、彼女も不思議そうに僕を見上げてきて。


｢この間、酷い態度取っちゃってごめん｣


もう一度謝ると、


｢こちらこそ、あの時、急に変な事言っちゃってごめん｣


激しく首を振った彼女は、消え入りそうな声でそう謝ってくる。


｢いや、全然気にしてないよ｣


｢ううん、私の方こそ｣


そして、お互いがお互いの謝罪に対して謙遜し合った結果。


｢ふふっ…良かった！和田君、もう私と口利いてくれないかと思った｣


彼女は、心から幸せそうに笑ったんだ。


その笑顔が、僕達の関係性が以前と同じに戻った事を証明していて。


良かった。

その事実に胸を撫で下ろした僕は、ほっと笑みを零した。