例えば今日、世界から春が消えても。
少し高めの場所に設置されたチケットカウンターに、背伸びをしながらお金を置く彼女が何とも可愛らしい。


「置くよ」


彼女の手から札束を抜き取った僕は、自分のお金と合わせてそれをトレーに置いた。


そのままの流れでチケットを渡され、その内の1枚を彼女に手渡す。


「ありがとう」


宝物のように大事そうにそれを握り締めたさくらは、にこにこと笑顔を振り撒いた。



「冬真君、こっち向いて!」


そして、僕が遊園地のゲートを通ろうとした時。


背後から、名前を呼ばれた。


「ん?」


振り返った僕は、きょとんとした顔をしていたはずだ。


何故なら、


「はい、チーズ!…あははっ、めっちゃ面白い顔してるー!」


いつの間にかスマホを手にしたさくらはそれを垂直に掲げ、不意打ちで僕の姿を写真に収めていたのだから。


「ちょ、恥ずかしいから消してよ」


「やだー!初デートの思い出だもん、写真に残さないと!」


慌ててスマホを取り上げようとする僕と、笑いながらすばしっこく逃げ回るさくら。


「早く早く、入ろうよ!」


この状況を作り出したのは紛れもないさくら自身なのに、彼女は悪びれる様子もなく、楽しげにゲートの前で手招きをしてくる。


遊園地に入る前から体力を削られた僕は、苦笑しながら彼女の隣に立った。


「はい、手を繋いで」
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