例えば今日、世界から春が消えても。
「これ、ツーショット」


お化け屋敷の前で笑顔を浮かべる僕達、ジェットコースターを指さして怯えた顔をした僕達、コーヒーカップの中ですました顔をする僕達。


「それで、…あはっ、私だ」


画面をスクロールしていたさくらが不意にこちらを向き、恥ずかしそうに首を振る。


その画面に映っていたのは、人の目を気にせずにバレリーナのようなポーズをとるさくら、動物の置物の前で笑顔を浮かべるさくら、お化け屋敷から生還して半泣きの表情のさくら。


「僕達、意外と沢山撮ってるね」


この調子だと、1日で撮る写真の数はゆうに百枚を超える気がする。


写真を見終わった僕がそう伝えると、

「もっともっと撮るよ。全部の瞬間を写真に収める」

彼女は、唇に弧を描いて僕の手を握ってきた。


入場の時から、

「偽物でもカップルなんだから、手は繋がないと!」

と言われて繋いでいた手。


彼女の手が僕に触れる度、その温もりを感じる度、

自分の心が太陽よりも熱くなって、初めて感じる感情が心の中を支配していくのが分かる。



この感情は、きっと。



「初デート、すっごく楽しいね。…私、冬真君が偽物の彼氏で良かった」


でも、僕の思考は、彼女の幸せそうな声に遮られる。


「うん?」


続きを促すと、彼女は繋いでいた手を恋人繋ぎに変えてきた。
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