例えば今日、世界から春が消えても。
「あーお腹空いた、ポテトもホットドッグも美味しそう!」


それから暫くして、空腹を感じ始めた僕達は昼食を食べる為に場所を移動した。


屋外にあるお店の近くにあるテーブルに商品を置くと、すぐにカメラマンと化したさくらが写真を撮り始める。


「いい?こういうのは映えを狙うの。美味しそうに見えるように、画角はこのくらいで…」


「あのさ、とりあえず早く食べない?僕、餓死しそうなんだけど」


勿体ぶって説明を始めた彼女に、僕はたまらなくなって口を挟んだ。


「それもそうか、じゃあ食べよう!はい、手を合わせてー」


小学生のような号令と共に、僕達は笑いながら手を合わせる。


「「いただきます!」」


偽物のカップルの明るい声が、雲ひとつない空を駆け巡った。



「んーっ、美味しい!ほっぺた落ちそう!」


彼女は、本当に美味しそうに満面の笑みを浮かべながらホットドッグを口に入れていく。


「それは良かった。ポテトも美味しいよ」


「ちょっと待って。次、食べてみる」


もぐもぐと口を動かしながら話すさくらは、まるでリスみたいでお世辞抜きに可愛い。



そんな他愛のない会話を続けていると、不意に彼女が僕の服を指さした。


「長袖、暑くないの?脱いだら?」


ホットドッグをかじろうと口元まで持って来ていた手が止まる。
< 82 / 231 >

この作品をシェア

pagetop