あなたの妻になりたい
3.一人と一匹の時間
 マイリスとランバルトの部屋は中扉で繋がっているものの、この一年、その扉が開いたことはなかった。マイリスもランバルトの部屋へ向かうときは廊下を使っている。鍵はかかっていないけれど開いたことが無い中扉を、マイリスは心の中で「開かずの扉」と呼んでいた。
 カタ、という音がしてマイリスは目が覚めた。どうやら、ランバルトの部屋から戻ってきてから、ソファに座り込んだままうたたねをしてしまったようだ。頬を伝った涙が乾いたような引き攣れがあった。
 そして、その開かずの扉が、ギィと重々しい音を立てて開いたのだ。

(え、ランバルト様がいらしたの?)

 そう思った途端、マイリスの心臓はトクトクと早馬が駆け出すような速度で鳴り始めた。望んではいたことだけれど、絶対にあり得ないと思っていたため、心の準備ができていない。

「ランバルト、様?」

 仮夫の名を呼んでみる。だが、返事はない。姿も見えない。もう一度、名を呼んでみる。
「ランバルト様でいらっしゃいますか?」

「キゥッ」
 変な鳴き声が聞こえた。どこからどう聞いてもランバルトの声ではないし、ランバルトの鳴き声でもない。
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