夜と遊ぶ
一夜の住むマンションの近くの公園を通り過ぎようとした時。
妙に存在感のある、黒いベンツが停まっているのが目に入った。
なんだか、足が重くなり立ち止まると、
そのベンツの左右の前扉が開いた。
そのベンツから降りて来たのは、永倉ジュニアと、英二って人。
二人は明らかに私の方を見ていて、怖くて体が固まる。
そんな私に距離を詰めるように、永倉ジュニアは私の方へと歩いて来ると、1メートルくらいの距離で立ち止まった。
「二葉さん。この子加賀見会長の女でしょ?
辞めときましょうよ?」
英二が、そう永倉ジュニアの背後から声を掛けている。
「俺は、この女にちょっと話があるだけだ」
本当に、話だけなのだろうか?
永倉ジュニアは、私を睨み付けている。
この人、背も高いし、綺麗な顔だけど目付きが怖いから、
今、泣いて逃げ出したいくらい怖い。
「お前、加賀見会長に近付いて、何が目的だ?」
その言葉に、えっ?と思う。
目的って、一体何?
「お前がずっと加賀見会長の側に居るのは、知ってる。
一体、お前は何がしたい?」
「私は一夜が好きで…ただ一緒に居たいから一緒に居るだけで…目的とか言われても…」
そう私が話すと、この人の思っている答えじゃないのか、
永倉ジュニアの眉間がみるみる寄って行く。
「ふざけんな!
お前の事、俺が何も知らねぇと思ってんのか?」
伸びて来た長い手が、私の髪を掴む。
「…痛いっ、離して」
ブチブチ、とけっこう髪が抜けたような音が私の耳に届き。
痛みと恐怖で、目に涙が浮かぶ。
「お前が持ってんのか?」
「持ってるって、なに?
私、何も知らない…」
さっきから、この人の言ってる事がよく分からない。
「だから、お前の父親から渡されてるものがあるんじゃねぇのかっ?」
私の父親…。
この人と、お父さんは一体…。
お父さんが何を持っていたの?