夜と遊ぶ
「ねぇ、一夜。
一夜が私に構う理由って…そうだったんだ」


この人が私に必要以上に関わって来た理由が、やっと分かった。


「そうだったって?」


「もしかしたら、お父さんの娘の私が、永倉ジュニアに何かされるんじゃないかって、心配したから?」


そう訊くと、ちょっと困ったように、頷いた。


「真湖ちゃんが会長の俺の女だって知れば、この先ジュニアは下手な事出来ないだろうって。
初めにあいつに送らせた時も、真湖ちゃんを見るジュニアの目。
真湖ちゃんの事も、調べてたんだろうなって。
綾瀬さんの娘だって知ってた」

バックミラー越しに私を見ていた、永倉ジュニアのあの警戒したような、目。


「私にバイトを辞めさせて、GPS を付けさせたりも、そうか」


なんとなく、違和感あった事が、それで納得出来た。

そうやって私を守りながらも、
ヤクザである自分と関わっている事を、私の周りの人間に知られないようにも、気を使ってくれていた。


明るい時間に、この人と外を歩く事はなかったから。

だから、一緒に居ない時はそうやってGPSで私の事を見てくれていた。


「けど、さっきジュニアに詰め寄られてる真湖ちゃん見てたら、裏目に出たみたいだね?」


「うん。加賀見会長に近付いて、何が目的だ?って」

そう言うと、一夜はクスクス笑っている。


私は、先程の永倉ジュニアに髪を掴まれ脅された恐怖を思い出して、笑えない。


「でも、とりあえずジュニアにはさっき釘刺しておいたから、
もう真湖ちゃんには近寄らないと思う」


「一夜は私の事…」


「ん?」


「ううん」


私の事を本当に好きだったのか訊こうとしたけど、
それは訊かなくても、いいか。


訊かなくても、分かるから。


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