夜と遊ぶ
「でも、一夜がエスなら。
前に、焼肉屋で高崎さんに永倉ジュニアを殺せって言ってたのも、嘘だったのか、って安心した」


そうホッとして笑う私に、一夜は笑わず、目線を下ろす。


「高崎にジュニアを殺らして。
永倉の所が、今度は高崎を殺るだろうな。
そうやって、内々で揉めてくれたらいいと思って。
10年後の聖王会で、ジュニアと高崎、この二人は厄介な存在になるから。
今のうちに、消しておきたい」


「けど、さっき話してる感じだと、永倉ジュニアと一夜は、昔からの知り合いなんでしょ?」


それも、けっこう親しかったのではないだろうか。

なのに…。


「うん。まあ、親の繋がりもあるけど、
ナガやんと仲良くなってから、よく永倉家に俺が行ってて。
二葉、昔はもっと可愛げがあって。
よく、ナガやんと2人で二葉の事をからかってた」


一夜は懐かしそうに笑っている。


昔は、永倉ジュニアの事を、二葉って呼んでいたんだな。


「高崎も、俺の方が年上なんだけど、
本当に良い兄貴で。
あの人、マジ、良い人で…。
二葉もそうだけど、高崎もなんでヤクザなんかやってんだよ。
ヤクザじゃなきゃあ…」


あの焼肉屋の時、一夜と高崎さんは仲が良さそうだったのを思い出した。


それなのに、一夜は自分の目的の為に彼らを…。


「昔、俺が初めて人を撃とうとした時。
俺、拳銃持つ手が震えて、足も震えて。
マジ、びびってて。
高崎は、そんな俺に気付いて、俺の拳銃を取り上げて、代わりに撃ってくれた。
その時俺に高崎は、"加賀見一夜はいつか会長になる男だから、あなたがこんな汚れ仕事をする必要はない"って、言って。
それから、ずっと、高崎は俺の代わりに…。
それなのに、俺は高崎を利用するだけして消そうとしてる。
俺って、本当に最低で最悪」


「一夜はもしかしてだけど、今まで誰も殺した事はないの?」


それが普通なのだけど、この人達の世界で、しかも、一夜は大きな暴力団組織のトップで。


一夜は今まで、人を殺した事があると、思っていた。



「俺は、一度も人を殺った事ない。
ないのに、さもあるように、そんな顔して、聖王会のトップに立ってる。
俺はハッタリだけで、ここまで来た」


「そう…」


そうで、良かったと思う。


加賀見一夜は、誰も殺していない。

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