夜と遊ぶ
「真湖ちゃん、俺ね、子供の頃、警察官になりたかったんだよ」

「…警察官?」


「そうそう。昔、ヤクザのじいさんに、将来何になりたいんだ?って訊かれて、そう答えたら、すげえ空気になって。
今、思い出しても、ウケる」

そう言って笑っているけど。


警察官になれないと知った時の一夜はきっと、辛かっただろう。

暴力団関係者が身内に居る一夜は、警察官にはなれない。


「今とかも、パトカーとか見たら、カッコいいな、乗りたいなーとか思うんだけど。
今の俺がパトカー乗りたいとか言ったら、
ニュアンス変わるよね」


そう話す一夜は、本当に子供みたいで。

子供の時、本当に警察官になる事を夢見たんだろうな。


「俺、子供の時戦隊ものとかも、スッゴい好きで。
みんなで戦隊ものごっこする時は、絶対レッドは俺がやりたいとか言って譲らなくて。
ちょっと自分勝手で、イタイ子供で。
警察官もそうだけど、正義のヒーロー全般に憧れてて。
俺が世界を救う的な。
その上、昔から目立ちがり屋のカッコつけで」


なんとなく、そんな一夜が想像出来てクスクスと笑ってしまった。


「俺は、ヤクザなんかじゃない」


その声が、なんだか一夜の心の痛みのようで。


人は殺した事はなくても、
今までそれなりにヤクザとして悪事に手を染めて来ただろう。


その度、一夜はきっと、今みたいに苦しんだのだろう。


「真湖ちゃんとも、もう少し一緒に居られると思っていたけど」


「そうだね。春が来る迄」


私は警察学校に入るその時が、リミットだと思っていた。

一夜も、私が警察官になる事を知っていたから、同じ事を思っていただろう。



「真湖ちゃん、別れよう」


「うん…」


お互い、全てを知った今。


もう、一緒に居られないだろうな。


「お互い、LINEも消そう?」


それに頷き、私は鞄からスマホを取り出し、一夜のLINEを削除した。


トークルームも消すと、この数ヶ月が無かったように消えた。


一夜も同じようにスマホを触っていて、きっと、今私のIDを削除したのだろう。



「後、GPS も真湖ちゃんの方で消しといて」

「うん…」


本当に、これで綺麗さっぱりと、終わりなんだな。


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