夜と遊ぶ
「昨日は私の誕生日だったんですけど。
別れる時に、一夜に、私の誕生日のお祝いをやり直したいって言われてて、昨日の夜会う約束していたんです。
その待ち合わせの場所に、一夜は来なかったけど。
このホテルに居たみたいで」


そして、殺された。


「…そっか。そういう事か」


そう納得している一枝さんに、どういう事?と視線を向けた。


「俺、いっちゃんと付き合い長いから、いっちゃんが嘘付いてるのは、けっこう分かるんだよ。
だから、なんでだろ?って思ってて。
電話でいっちゃんが真湖ちゃんは来ない、って言ってたんだけど。
そっか。
違うホテルだったって事か」


「どういう事ですか?」


それを聞く事が怖いような気持ちがあるけど。


「前々からね、いっちゃんよく俺に言ってたんだよ。
真湖ちゃんの誕生日のお祝いを、思い出のホテルでやり直すんだって。
俺がそうやって聞いてたホテルは、このホテルの707号室」


一枝さんは、少し離れたそのラブホテルを指差す。


一夜が殺された、ホテル。



「一枝さん…まさか…ですよね?」


心臓が嫌な音を、立てている。


"――竜道会へどうやってリークしたのかは知りませんが、自身が護衛も付けず、ホテルで居るのだと、そうやって誘った――"


一枝さんが、竜道会に一夜の居場所をリークしたの?


"――自分を撃った犯人を、捕まえさせないようにだろうな。
そもそも、加賀見が一人であんな場所に居るのもおかしい。
誰かに自分を殺害させて、その犯人を庇ってる――"


一夜が庇いたかったのは、この人…。


「犯人は現場に戻るって、本当だね。
俺が撃ったわけでも、殺し屋を送り込んだわけでもないけど」


肯定のような、その言葉。


「やっぱり、真湖ちゃんの誕生日をやり直す話は、本当だったんだ。
ただ、場所だけ嘘付かれてただけで」


「一枝さん、なんで一夜を?!」


そう感情的になる私に。


「なんで?って?」

そう、冷たい視線を返して来る。


その一枝さんの顔を見ていて、気付いた。


この人の弟の永倉ジュニアは、もう殺されているんだ。


そう仕向けたのは、一夜。



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