夜と遊ぶ
「昨日ね、マンションのポストに封筒に入ったUSB が入っててね。
差出人とかはなかったけど、入れたのはいっちゃんだろうね」


そのUSB は、この人が自分の会社を使って裏金を作り、
永倉組にお金を流している、違法行為の証拠の一つになり得るもの。


「あ、やっぱり真湖ちゃんもそれ知ってるんだ?
いっちゃんかうちの弟辺りから、USB の事聞いたのかな?」


私の顔を見て、納得したように一枝さんは笑っている。


それを私が知っているかどうか知りたくて、そう話を振って来たのだろう。



「これをいっちゃんが持ってるって事は、やはりいっちゃんは警察と繋がりがあったんだ」


「やはりって?」


この人は、一夜が警察のエスだという事に気付いていたの?


「俺、昔からいっちゃんの事を知ってるけど。
いっちゃん、ヤクザを毛嫌いしてたのに、なんで急に組に入るとか言い出したんだろ?って、ずっと疑問だった。
まあ、いっちゃんは堅気の父親やその新しい家族と折り合いが悪かったから、その反抗心からかな?とか、無粋な事は訊かずにいたんだけど。
なるほどね」


一夜のその新しい家族の事は、私はよく知らない。


昌也から前に聞いた事くらいしか。


一夜の母親があの襲撃で亡くなり、その後、父親は再婚して、義理の母親と、腹違いの弟が居る、と。


新しい家族と、一夜はあまり上手く行ってなかったんだ。


「そうやって、いっちゃんは警察の手先になって、聖王会に潜り込んで。
けど、情に負けて、そのUSB を俺に渡した。
こんなものが表に出なくて、良かったよ」


情…。


一夜は本当に、この人が好きだったのだろう。


なのに。


「そんな一夜を、一枝さんはなんで?」


一夜が、殺されるような事を。


先程は怒りの感情が湧いたけど、今はそれが無性に悲しい。


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