夜と遊ぶ
一夜の弟
一夜が殺害されてから、1ヶ月以上が過ぎた。


今日は、一夜の49日。


私は再び、一夜が最後の時を迎えた場所を訪れた。


事件以降、現場となったラブホテルは営業を停止しており、
現在も、まだ再開されていない。


今は、規制線は解除され、事件当日、あれほど居た野次馬のような人達も居ない。


ラブホテルの一角に、誰が置いたのか、花やビールやお菓子等、沢山置かれている。


これを片付ける人は、このホテルの従業員だろうから、こうやって置かれて迷惑かもしれないけど。


私はそこに、1本の赤い薔薇の花を置いた。


「あなただけ。
一目惚れ、だって」


1本の薔薇の花の意味は、そう言われている。


今思うと、出会ったあの夜から私は一夜に恋をしていたのかもしれない。


一目惚れ、とは少し違うかもしれないけど。


けど、本当に、私にはあなただけ、だから。



季節はもうすぐ12月になろうとしていて、今みたいな午前中はとても寒い。


非番の今日、仕事終わりに此所にやって来た。


「一夜…」


テレビとかでは、最近は殆どこの一夜の事件を取り扱う事はなくなった。


暫くは、毎日のように報道されていた。


テレビとは違い、ネットでは今も、一夜がどれ程凄惨な状態で亡くなったのか、どこまでが本当か分からない情報が沢山溢れている。


誰かが、シートで全体を隠すようにくるまれてホテルの外へと運ばれて行く一夜の写真をTwitterで流していて、目にした。


だけど、それだって本当に一夜かどうか…。


私は一夜の亡くなった姿をこの目で見ていないから、
どこかでまだ一夜の死を信じられない。



自分でも、本当に往生際が悪いと思う。


< 176 / 215 >

この作品をシェア

pagetop