夜と遊ぶ
「だから、さっきそこに置いてた薔薇の花。
兄ちゃんの墓に持ってってやれよ。
まあ、こっからちょっと遠いけど。
兄ちゃんは、此所には居ないから」


そうか。


此所には、一夜は居ない。


「じゃあ、中はなんで此所に来たの?」


「え、ああ。俺は遊んでた帰りで。
なんとなく、立ち寄っただけだよ」


そう言われると、少し中からお酒の匂いがする。


「そっか」


なんとなく、か。


「それにしても、手じゃなくて紙に書いてくれたらいいのに」


そう思って、自分の手を見る。


ボールペンのインクはけっこう洗っても落ちにくい。



「だって、紙持ってないから」

「私が持ってるよ」

「じゃあ、言えよ」


「いや、言う前に中が書くから」


そう言い合っていたが、目が合ってお互い笑ってしまった。


「本当、どこが絶世の美女だよ」


そう言って、さらに笑っている。


なんだか、私もそれが段々と面白くなって、笑ってしまう。



ひとしきり笑うと。


「一夜は、どんなお兄さんだった?」

そう、訊ねてみた。


一夜は、どんなお兄さんなのだろうか?


「どんな…。
俺ら歳が離れてるから、一緒に遊んだりとかはないから。
それに、兄ちゃんあんまり家に帰って来なくて、大学入ってすぐには、一人暮らし始めてたし」


「そうなんだ」


一夜の昔の事は、あまり聞いた事なかったからな。


「兄ちゃん、あんな感じだから、俺ら家族の前でニコニコしてんだけど。
ちょっと、壁作ってた。
親父とは、普通に仲悪いんだけど、俺や、俺の母親には、なんていうか、笑いながら、避けられてるような感じで」


前に一枝さんが言っていたように、やはり新しい家族とは一夜は折り合いが悪かったんだな。


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