夜と遊ぶ
◇
「一枝さん。本当は一夜はなんて言ったんですか?」
「ん?何が?」
「多分。その伝言どうのって話迄、嘘じゃないでしょ?」
そう訊くと、やはりそうなのか、一枝さんはちょっと困ったように口を開いた。
「"ないかな?"って」
「え?」
「いっちゃん、真湖ちゃんに伝えて欲しい事は何もないって」
そうか。
一夜は、私に伝えたい事はなかったのか。
「なんで、笑ってるの?」
私が笑っているのが変だったのか、一枝さんは首を傾げている。
「だって、一夜と付き合ってる時。
毎日私達は一緒に居て。
一夜は、ずーとずーと私を好きだって言ってくれていて。
本当に、こちらが戸惑うくらい私の事を愛してくれて。
だから、もう、ないだろうな、って」
本当に、一夜と一緒に居た時間に、
彼から貰った愛は満ち溢れていた。
「それに、好きだとかそんな言葉は、誰かに伝言して貰うものじゃないから」
直接、一夜が伝えてくれるから、
"好き"も"可愛い"も意味を持つ。
「そうなんだ。
なるほどねぇ」
一枝さんは、納得したように笑っている。
ポツリ、ポツリ、と雨が降り出して。
それは、段々と強くなる。
「予報では、まだ降らないはずなのに」
一枝さんは、空を仰いでいて。
顔に、雨が降り注ぐ。
その横顔を見ていたけど、一枝さんの頬に伝うそれは、雨ではないだろう。
私も、空を仰いだ。
顔に、冷たい雨が落ちて来る。
雨と一緒に、私の涙が流れた。
この空を見ていると、私と一枝さんだけじゃなくて、
一夜も泣いているように思えた。
喜んでるのか、悲しんでいるのかは分からないけど。
(終わり)