夜と遊ぶ
早瀬さんがお酒の弱い私に気を利かせてくれて。
アルコール度数が低くなるように、ジュースを多めに混ぜながら色々なカクテルを作ってくれた。


そのカクテルを作る手際が良いから訊いてみると、ヤクザの世界に入る前は、高校卒業後バーテンダーとしてバーで働いていたらしい。


アルコールの低い早瀬さんオリジナルのカクテルを数杯楽しんでいたのだけど。


「これは、今までのと違って度数が高いですが、ギムレットです」


「ギムレット」


飲んだ事はないけど、聞いた事はある。


「カクテル言葉では、"長い別れ"です。会えない人を想いながら飲むお酒です」


長い別れ…。
泣くつもりはないのに、私の両目に涙が浮かび、それはすぐに溢れる。


一夜…。


「今夜はもう誰も来ないでしょうから、ちょっと閉めて来ます」


早瀬さんは、泣いている私に気を使ってくれたのかもしれない。


カウンターから出て、扉を開き、看板をcloseに変えている。
外の傘立ても、中にしまっている。


「俺も、飲んでいいですか?」


早瀬さんはカウンターの中から適当に持って来た瓶を持ち、私の隣に座った。
何のお酒かは分からないが、グラスに入れてそのまま飲んでいる。


色や匂いから、ウィスキーかな?



「…泣いて、ごめんなさい…。
普段は一夜の事を考えないようにするんだけど…。
一人の夜とか、今もそうだけど、一夜の事を思うと涙が止まらなくて…会いたい…一夜…」


なんで、もうこの世に居ないの?
一夜の居ないこの世界で、私は後何十年生きないといけないのだろう。


一夜に、会いたい…。


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