夜と遊ぶ
初めは、泣いたらいけないと泣き止もうとしていたが。
早瀬さんは何も言わず黙ってウィスキーを隣で飲んでいて。
そうやって寄り添ってくれているからか、もう我慢せず泣いてしまった。


涙を流しながら、ギムレットのグラスに口を付ける。
確かにアルコールが強いのか、飲むと喉と体が熱くなる。


「…美味しいですね」


アルコール度数は強いが、さっぱりとした口当たりで飲みやすい。


「真湖さん」


早瀬さんに私の名を呼ばれると同時に、肩に手を回され引き寄せられる。


それに驚き、ギムレットのグラスを落としてしまう。
ちょうどテーブルにグラスを置こうとした時だったので、テーブルの上で倒れ、残っていたギムレットがテーブルを濡らす。


早瀬さんは、逆の手を私の頬に当て、顔を近づけて来る。


「…ちょっと、辞めて下さい!」


そう早瀬さんの体を押すけど、力が上手く入らない。
だけど、それで早瀬さんは近づけて来ていた顔を止めた。


「あの人が本気で好きだったあなたに、興味があって」


早瀬さんは、だから急にこんな事をして来たのだろうか?
早瀬さんの言うあの人は、一夜の事。


「俺の車の後ろの席で、あなた達はしたい放題で」


そう言って鼻で笑うけど、それは嫌な感じではない。


「あ、あの、お酒に何か入れました?」


ギムレットを飲んでから、体に力が入らなくて、頭がボーとして、それが段々と強くなる。


「いいえ。
本当に真湖さんはお酒が弱いんですね?」


早瀬さんは、再び私にキスをして来る。
入らない力で抵抗をするが、たやすくキスをされた。


最初は、辞めてと思って、抵抗しようとしていたけど。
段々と、そんな気持ちが薄れて来て。
酔っているからだけじゃなくて、私の心は弱っていて、この人を受け入れてしまった。
淋しさや、流されたってやつなのかな。


早瀬さんの舌が私の口の中に入って来る頃には、私からもこの人の背に腕を回していた。


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