夜と遊ぶ
「真湖ちゃん、熱ある?」


その言葉に、回していた手の力を抜いた。


「同じ課の人が最近インフルエンザで…。
私も夕べから喉に違和感あって。
一枝さんに、移してやろうって」


そうニヤリ、と笑うと、ちょっと苦笑された。


「本当に、病んでるんだ」


数時間前に、家に有った総合風邪薬を飲んだけど、それでも熱が上がって来たのだろう。
薬を飲んだから眠気が怖くて、車じゃなく電車で今日は来ていた。


「こんなに雨に濡れて、よけいに熱が出るよ?」


そんな事、いちいち言われなくても分かってる。
この人も、私が分かってる事を分かって言って来てるんだろうけど。


「一夜…」


熱のせいか、段々と意識が朧気として来て、
一枝さんに凭れるように抱き着いた。


「このまま真湖ちゃんの事、放っておく事も出来ないか」


今にも倒れそうな私を、傘を持っていない手で抱きとめてくれる。


一夜と同じ香水を使っているのか、
一枝さんから一夜の匂いがする。


その香りに、一夜に対する愛しさが募る。


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