夜と遊ぶ
一夜が出て行くと、部屋は妙にシーンとしてしまう。


この人に、教えた方がいいのだろうか?


あなたの弟が、命を狙われていますよ?と。


いや、でも、そんな事を話したら、
私はただではすまない。


"ーー俺も、女を殺りたくないからーー"


一夜に、殺される。



「真湖ちゃん、さっきから思い詰めた顔してどうしたの?」


そう一枝さんに声をかけられて、いえ、と首を横に振った。



「真湖ちゃんがいっちゃんの側に居て、何を知ってるのかは知らないけど。
いっちゃんには、聖王会会長としての顔もあるって事は、俺も分かっているから」


なんだか、この一枝さんは全てを知っているのではないか、と、その言葉を聞いていて、思ってしまった。


「俺の弟もまた、俺の言う事聞かないからな…」


そう独り言のように溢された言葉に、やはり、この人は色々と分かっているのか、と思った。



「ただいま」


暫くして、一夜が戻って来て、
その後ろに部屋住みの男性がお盆に載せて、切ったメロンを持って来ている。


「あれ?
真湖ちゃん凄い暗い顔してるけど、
ナガやんに何か言われた?」


「え?何も言われてないよ?」


そう首を振り、一枝さんの方に目を向けると、
何もなかったように笑っている。


「真湖ちゃんに、あまりいっちゃんを弄ばないで、って、釘指しておいた」


「えー、真湖ちゃんになら、俺、弄ばれてもいいのに」


「あまり深入りしない方がいいよ」


そう、一枝さんは言うけど。


なんとなく、一夜ではなく、私に言っているのだろう、と思った。


一夜に深入りしたら、危ない、と忠告されているのだろう。

< 53 / 215 >

この作品をシェア

pagetop