夜と遊ぶ
夜に堕ちる
「真湖ちゃん。待たせてごめん!」


コンビニの前で30分程待っていると、
向こうから息を切らして走って来る一夜。



「え、そんなに走らなくても大丈夫なのに!」


「だって。あまり待たせたら、真湖ちゃん寂しがるでしょ?」


そう笑っていて。


なんだか、何も言えなかった。


多分、私はけっこうな寂しがり屋で。


今も一夜を待っている間、本当に来てくれるのか、凄く不安だった。


一夜は薄手のブルゾンを着ていて、
あの、赤いフレームの眼鏡をしている。


「スーツより、一夜はこっちの方がいいね?」


スーツ姿の時は、一夜はヤクザって感じがするけど。


今は、そんな事はなくて。


「そう?
俺、スーツよく似合うって言われるんだけど」


「いや。べつにスーツはよく似合ってるよ?」


それに、一夜はそっか、と呟き、私の手を握る。


こうやって一夜に手を握られる度にドキドキとするけど。


なんとなく、一夜は子供の手を握るような感覚なのかもしれないな?と、思ってしまった。


先程、一枝さんと話しているこの人を見ていて、
やはり一夜は私なんかよりもうんと大人なんだと、感じた。



「真湖ちゃん、食べるのもそうだけど、
何処か行きたい所ある?」


「特に、ないかな?」


もっと昼間とかなら、思い付いたかもしれないけど。


もう19時近くて、真っ暗で。



「そっか。
俺、いまいちデートとか何処に行っていいのか分からないんだよね。
だから俺、あんまりモテなのかも」


そう、少し困った顔をしている。


「一夜、今は本当に彼女居ないの?」


「居ないよ」


「ヤるだけの女の子は沢山居るんだっけ?」


「え?俺、そんな事言った?
お願い、忘れて」


アハハ、と誤魔化すように笑っている。

< 58 / 215 >

この作品をシェア

pagetop