夜と遊ぶ
「…鍵も返す」
私は鞄からキーケースを取り出し、
昌也の部屋の合鍵を、取り外し、
それを突き出した。
「…捨てろよ。いらないから」
昌也はそう言うと、私に背を向けて歩いて行く。
昌也とこのままだと、本当に別れてしまう。
そう思うと、昌也を引き留めたい気持ちが全くないわけじゃないけど。
「いいの?」
そう訊いて来る一夜に、うん、と頷いた。
「いいよ…。
私、もう昌也の事を好きじゃない」
「真湖ちゃん、俺に夢中だもんね?」
笑っていて、きっと私が言った言葉を軽く交わされると分かっているけど。
「そうだよ。一夜に、夢中」
この人を好きになったらダメだと思うけど、
一夜を好きだと思う気持ちが抑えられない。
好きになったら、ダメなのに。
「あ、映画もホテルも辞めて、夜景でも見に行こう?」
唐突に一夜はそう言うと、私の手を握り少し強引に歩き出す。
先程の私の告白を、ここまでスルーされるとは思わなかった。
でも、そんな私を避けずに受け入れてくれているのは感じる。
歩きながら、時々私の方を見て、優しく微笑んでくれるから。