夜と遊ぶ
「俺が10歳の誕生日の時。
母親側のじいさんが夜にレストランを貸し切りにしてくれて。
俺の誕生日を祝ってくれた…。
俺、じいさん、母親…。
父親は仕事で来るの遅れてて。
じいさんの護衛の人間も数人居て。
あの時、特にどっかの組と抗争中とかでもなかったから、じいさんも気が緩んだんだろうな。
外で銃声のような大きな音がして、扉から一人の男が入って来て怒声あげて」


前に、昌也から聞いた時は、まだ一夜の事もよく知らなくて、
やはりヤクザって怖いな、とぐらいにしか思わなかった事件。


及川竜三が食事で訪れたレストランで、他の組の人間から襲撃に合い、
聖王会の組員一人と、娘が亡くなった、と。


「あの時は、あの鉄砲玉の奴がなんて言ってたか分からないけど。
及川死ね、とか叫んでたのかな?
機関銃を撃ちまくってて。
うちのじいさんは、勇敢なボディーガードが盾になって無事だったんだけど。
そのボディーガードの男は、蜂の巣で。
じいさんの隣に居た俺を庇った母親も、銃弾3発喰らって。
即死ではなかったんだけど」


「一夜、ごめん。そんな話をあなたにさせたかったわけじゃなくて」


「分かってる。真湖ちゃんは、俺の母親がどんな人か訊きたかっただけでしょ?」


「うん…」


「俺のお母さんは、凄く優しい人で。
けど、時々ちょっと厳しくて…。
笑顔が素敵で、よく笑ってたな。
今でも、大好きな人」


「そう…」


"――真湖ちゃんの誕生日が、嫌な思い出だけになったら、可哀想だなって。――"


一夜の10歳の誕生日の日に、この人は大好きな母親を亡くしたんだ。


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