夜と遊ぶ
このお店の料理はとても美味しくて、昌也と来た時よりもそう感じた。


豚の角煮、ポテトサラダ、鯖の味噌煮、豚肉のシソと梅肉包みのフライ、松茸の土瓶蒸し、松茸ご飯。


それらを、一夜と二人で分ける。

一夜は料理の他に、日本酒を冷やで頼んでいて、それをグラスで飲んでいる。

私は、緑茶。


この店内には、今は一夜と私だけ。


早瀬さんを含め、護衛の人達は外で待機をしている。


店に入らないのですか?と訊いた私に、狭い店なので出入り口を見張るだけで大丈夫なのだと、早瀬さんが言っていた。


「一夜と幸子さんって、どんな知り合いなんですか?」


料理に手を付けながら、そう尋ねてみる。


「加賀見会長と私は…」


そう言い澱む幸子さんよりも、
一夜が先に口を開いた。


「ほら?
さっき真湖ちゃんと話してた、あの事件」


あの事件って、一夜のお祖父さんを狙ったヒットマンに、一夜のお母さんも撃たれたっていう…。


「うちのじいさんを身を呈して護ったのが、幸子さんの旦那さん」


え、て事は、幸子さんの旦那さんは亡くなっているの?


"ーーうちのじいさんは、勇敢なボディーガードが盾になって無事だったんだけど。
そのボディーガードの男は、蜂の巣でーー"


「幸子さんには、俺の1個下の息子が居て」


「加賀見会長には、息子がいつもお世話になっています」


そう笑う幸子さんの顔は、あの人にソックリだ。


「早瀬の奴、他の店なら中迄入って来るのに。
理由付けて、入って来ないし。
やっぱり、母親の店には入りづらいのか」


一夜の言葉を聞きながら、出入り口の方を見る。


それで、早瀬さんは外に居るんだ。


「だから、幸子さんの旦那さんが、まあ、うちのじいさんを護った英雄って感じで。
あの事件から、もう24年経ったけど。
うちの組の人間は、時々この店に来ている」


「そうなんだ…」


多分、だけど。


昌也はそれを知らずに、私をこの店に連れて来たのだろう。


それに、あの時、なんとなくで、この店に入ったから。

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