夜と遊ぶ
◇
「お腹一杯」
お店から出ると、自分のお腹を擦る。
私達の他にお客さんが来なかったな、と思っていたが、
お店の前に、こんな黒塗りの車ばかり停まっていて、護衛の人達も立っていて。
そりゃあ、誰も来ないか。
「一夜、ご馳走さま」
横に居る一夜にそう言うと、いえいえと笑っている。
そして、私の手を握ってくれる。
「真湖ちゃん、この後どうする?
俺の家に泊まる?」
そう訊かれ、それに頷きたいけど。
「ごめん。明日は朝からアルバイトだから。
一夜のマンションから通えなくもないけど…」
私のアルバイト先は、自宅のあるマンションの近く。
「朝、誰かに車で送らせるよ?」
「ん…でも、それに、泊まる用意何も持って来てないから」
まさか、一夜の自宅に泊まってもいいなんて思わず、
何も用意して来ていない。
「お泊まりの用意くらい、こっちで用意してあげるけど…。
って、ヤりたいから無理に引き留めてるわけじゃないから!」
そう、慌てたように言うから、笑ってしまう。
その、一夜の下心丸出しの言葉。
「例えば…、一夜がいつも使ってるあのホテルで、ちょっと休憩…とかは?
お泊まりは、朝起きられなくなるから。
寝かさせてくれないでしょ?」
「だね。
じゃあ、ちょっとだけ休憩しよっか?
此処から近いから、歩いて行こっか」
そう、嬉しそうな顔をしている。
◇
昨日の夕方迄居た部屋に、こんなにもすぐ来るとは思わなかったな。
また同じ、707号室。
今回、過去二回とは違うのは、この部屋の外に一夜の護衛の人達が立っている事。
この部屋の扉の向こうに誰かが居ると思うと落ち着かないが、
流石に護衛の人達は部屋に迄入って来ないから、それは良かった、と思う。
「真湖ちゃん、好きだよ」
「うん…」
私の上に乗り、私の体を夢中で求めて来る一夜の背に、腕を回した。
今が幸せだから、この関係がいつか終わるなんて思えない。
一夜と私、永遠に一緒に居たい。
そう思うのは、いけない事なのだろうか…。