気だるげ男子の無自覚な独占欲
「ん。いい子」
満足気な声と共に、もそりと動いたかと思えば後頭部にかかる柔らかな圧。
優しい手つきは私の心を解していくようで。
さわさわと一定のリズムで触れられるのが心地いい。
私が一生懸命に考えようとしていることがとても些細なものに思えるほど。
「おやすみ」
その一方的な宣言から彼の可愛らしい寝息が聞こえてくる。
すー、すー。
生まれては保健室の静かな空気に溶け込んでいく。
そんなさりげなさなのに、壁にかかった時計が毎秒放つ音よりも私の意識を惹きつけて仕方ない。
そしてその音を聞いていると。
「ふわぁ……」
つられて大きなあくびが私の口から零れた。
約1週間、睡眠時間3時間を継続しているせいでもあるだろうけど、きっと彼を見ていたからやって来た大きな睡魔。
彼が寝たおかげで私は自由に動けるし、彼の腕の中から抜け出して顔を確認したら彼がどこのだれだかわかるかもしれない。
だけど、彼の空気に絆された私に動く気力は起きなくて。
「……おやすみなさい」
小さく返した言葉は、名も知らない彼へと届かないままに。
ただ私を、彼と同じ世界へと誘った。