気だるげ男子の無自覚な独占欲



「キス……」

「……?」

「したんだ。そっか」

「へ……?」


 アホな俺の言葉に、アホみたいな声を出す彼女。


 ぐらついていた空気は一瞬で動きを止めた。


 しかし、俺の思考は目まぐるしく動く。


 キスというのは一般的には好き合っている者同士がするもので。


 だから、お互いに好意のない俺たちがするものではなくて。


 つまり俺は、してはいけないことをしてしまったということだ。


「ごめん」

「あ、えっと……」

「間違えた」

「まちがえ、た?」

「好きじゃないのに、キスをした」


 謝っても許されるとは思っていない。


 だって、恋愛漫画に“女子のファーストキスは一生記憶に残り続けるもの”って書いてあったから。


 少女趣味の母さんが押し付けてきた3種類の漫画全てに、言葉は違えどそう言った意味のことが書かれていたから間違いない。


 だからきっと、彼女は俺のことを許してくれないんだ。もう、一生顔を合わせてくれないかもしれない。


 謝罪と同時に下げた頭を上げられずにいると。



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