気だるげ男子の無自覚な独占欲
「……間違いなら、仕方ないよね」
予想とは打って変わって、高く明るい声が頭上に降ってきた。
顔を上げると儚げな笑みを浮かべる彼女がいて。
「大丈夫だよ」
そんなはずがないのに、そんなことを言うから。
簡単に許してしまうから……俺はもう、謝れなくなる。
静まり返った保健室は居心地が悪くて、なにかしらの言い訳を紡ごうと口を開こうとしたら。
「そ、そういえば、佐原くんとの打ち合わせがあったんだった。もう行かないと」
そう言葉を残した彼女は、俺の言葉を待つことなく佐原とやらの元へ急いだ。
あいつのところに行くな、なんて。引き留めたくなったのは、解決しないままにいなくなられるのが嫌だからだ。
それ以外に理由なんてないはず。
恋愛漫画……いわゆる恋の参考書には、“その人と一緒にいて、鼓動が速まったらそれは恋”なんてことも書かれてた。
彼女といると、ドキドキするどころか落ち着いて仕方ない。家で寝るよりも熟睡できてしまう。
……だからこれは、恋にしたくてもできない。そういう、もどかしいやつ。