気だるげ男子の無自覚な独占欲
奴に背を向けて歩き出す。すると、奴はまだ俺をおちょくり足りないらしくて。
「ひまりちゃんの隣、俺がもらうね」
やけに真剣な声で、俺を挑発した。
「いやぁ、最初はひまりちゃんだったら俺に媚びないし、一緒に居て楽だろうなって思って推薦したんだけどさ。ちょーっと観察してみたら、全部に一生懸命なとことか、頼まれたら断れない人の好さとか。すっごく可愛いのに自覚してないところがこう、グッとくるよね~」
のんびりとした物言いなのに、目の奥の鋭さから牽制の意を感じる。
彼女を巻き込んだ理由までも明かしてきたからこそ、きっとこいつは全ての本心を話してくれたんだってこともわかった。でも。
「それは“好き”じゃないだろ」
「……ん?」
「グッときただけなんて曖昧な感情、そんなの“好き”って言わない」
俺は彼女以外に感じたことはないけど、世の男は目の前で髪を結んでいる姿や、顔の横にある髪の毛を耳にかける姿を見るだけで、グッとくるものらしい。
そこで“可愛いな”とか“なんかいいな”と思うことはあっても、“好きだな”と思うことはないはずで。
だったら、佐原のその不明瞭な気持ちは、恋とは呼べない気がする。
彼女の隣にいる権利はないんだ。俺と同じで。