気だるげ男子の無自覚な独占欲



「ふっ……いやいやいや」


 誠実の面をかぶったこいつは、急に笑ったかと思えば呆れたような声を出した。


 それから、なにも知らない子どもに言って聞かせるみたいに、


「そもそも恋って曖昧なものでしょ?」


 俺より僅かに高い目線を同じにして、そう言った。


 少しの迷いもない物言いは、俺の心を刺すには十分な威力で。


 自分が信じてきていたものを真っ向から否定されたような……土台を全部叩き壊されたような、そんな衝撃。


「グッときたっていうのは“好き”の一つの要素であって。そこから発展したいとか、独り占めしたいとか、そういう感情が湧いてきて。だからこうして、我が物顔してひまりちゃんの隣に立ってる君に、宣戦布告をしに来たんだよ」

「……」

「すぐにその場所を奪ってあげるって」


 にっこりと作られたその笑みは、殴りたくなるほどの綺麗さ。


 ……でも、俺には言い返す気すら起きなくて。


「だいたい、“好き”は人それぞれだよ。正解なんてない。ひまりちゃんを取られたくないからって、自分の考えを押し付けるのはやめてくれる?」


 最後にどぎついとどめをさされた。



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