気だるげ男子の無自覚な独占欲



「うん。あれ、名前書いてなかった?」

「書いてなかったよ」

「俺ってわかったの?」

「雰囲気でそうかなって……」


 実行委員のお仕事で、資料作成や装飾づくりの雑用関係を連日頼まれていた私。


 みんな忙しいと思うし、代わりにやることが少なくなかったんだけど……。


『頑張りすぎ。もっと肩の力を抜いて』


 ルーズリーフの切れ端と、紙パックのいちごみるく。


 いちごみるくは、教室から一番離れた棟に設置された自動販売機で売られているもので、歩いて7,8分ほどかかる。


 それらが机のど真ん中に置いてあって、疲れた私の目に留まった。


 力の抜けた自由なハライや力の込められていない薄い文字が、いかにも湯本くんの字らしいと思った。


 それに“疲れたときには甘いもの。特にいちごみるくが好きだ”って話をした。


 何気ない話を覚えてくれていたのも好き。


 言葉と優しさをくれる、湯本くんが大好き。


 失恋したと思っていたから、好きすぎて辛かったけど……今はただただ愛おしい。


「最初もこの前も今も。ずっと、ありがとう」


 守ってもらってから、一度も伝えられていなかった感謝を、ここで。



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