気だるげ男子の無自覚な独占欲
「せんせー。俺いま超眠いから、保健室に行ってもいい?」
教室の一番隅の席から教卓に向かって、気だるげな声が投げられた。
張り上げているわけじゃない、でも普通の声量で話している人たちがいないこの教室ではよく響いた低い声。
そしてそれは、どこかで聞いたことのあるもののような気がして。
先生や私も含め、視線が一気に後ろの方のそちらへと集中する。
その瞬間、パチッと。
眠たそうな目をした彼と視線がかち合った。
黒々とした瞳なのに、どこか柔らかく感じられるのは彼が纏う雰囲気のおかげか。
たった数秒。されど数秒。
いつもだったら真っ先に目を逸らしてしまう人見知りの私が、いつまでも見つめ合っていられるような……そんな不思議な安心感を放っていた。
「……湯本。お前はいつも寝ているだろうが」
「たまにはベッドで寝たくて」
「却下だ」
「じゃあここで寝る」
「おい、堂々とサボるな」
呆れた顔をする先生と気だるげ全開の湯本くんは“なんで2人は会話をしているんだろう?”と疑問に思うくらいに不穏だった。