気だるげ男子の無自覚な独占欲
このクラスになっておよそ3か月。
入学初日にクラス名簿を見たから、名前だけは知っている湯本空羽くん。
先生が苗字で呼んだことでようやく顔と名前が一致した。
私との関わりがないだけじゃなく、普段から誰ともつるむことなく基本的に机へ突っ伏して寝ている彼の声を聞くのは今が初めてで。
……いや、たぶん昨日が初めて?
きっぱりとした物言いとは裏腹に棘のない口調に、こちらまで眠くなりそうな丸みを帯びた声。
間違いない。夢だと思っていたけれど、実はそうじゃなかったみたい。
夢じゃなかった上にこんなにも近くに“彼”がいたなんてびっくりだ……。
思わぬ再会に今がどんな状況なのか忘れかけていると。
「あぁ、これこそがサボりだよな」
声こそ変わらないものの視線を鋭くさせた湯本くんが、こちらの方へ向かって声を大きくした。
正確には私の近くにいる、先ほど苛立ちを露わにしていた女子たちへ向かって。
湯本くんの変貌に驚いたのか女子たちはびくっと肩を跳ねさせ、逃げるように視線を逸らす。