恋と、餃子と、年下男子
 フードマルシェは思っていた以上に楽しかった。
 圭人の言っていた通り、珍しい食材がたくさんあり、それを並べる各店舗のブースが軒を連ねていた。ブースによって見せ方が違っているのも面白かったし、参考にもなった。営業部にいたなら、今後に活かせたかもしれない。
 お客さんはファミリー層から中高年のご夫婦まで幅広く、イートインスペースも賑わっていた。
 圭人が買ってくれたアイスコーヒーを飲みながら、私たちもイートインスペースに腰を下ろす。

「私の会社も食品を扱ってるの。なんだかすごく良い刺激になったわ」
 圭人はニコニコと笑っている。
「そう? それなら良かった。ていうか萌子さん、休みの日まで仕事のこと考えてるの?」
「まあ、ね……。他に趣味も無いし」
 彼氏にもフラれたし……って。言ってて虚しくなる。
「僕はまだ働いたことがないからわからないけど、萌子さんにとって仕事って何?」
「何よ、その某N○Kの番組みたいな質問」
 あはは、と圭人が笑う。
「私にとっての仕事は……そうね、私が私でいるための理由、かな」
「萌子さんでいるための理由?」
「うん。私、これといって得意なことが無いの。勉強ができたわけでも、スポーツや音楽ができたわけでも、あなたみたいに料理が上手なわけでもない。だけどね、社会人になって二年目の時、私の企画が初めて通ったの」
「萌子さんが考えた企画?」
「そう。その企画が取引先にすごく気に入ってもらえてね、私は結構大きなプロジェクトを任せてもらえた」
「上手くいったの?」
「ええ、大成功だった。これからも本多さんにお願いしたい、とまで言ってもらえたわ」
「へえ! すごいね」
「初めてだったの、そんなふうに認めてもらえたの。嬉しかったなあ……。だけど、先方の担当者が変わってね。それまでの若い担当者から、だいぶ歳の離れた男性になって……。若い女なんか信用できない、って突然言われたの」
「え……。何、それ」
「それで、私は担当を外された。代わりに担当したのは、私の同期の男の子だった」
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