恋と、餃子と、年下男子
 そう。それから少しずつ、貴之は私から仕事を奪っていくようになった。誰に何を言ったのかはわからない。でも、私は何故かいつも決まりかけた案件を貴之に譲る羽目になった。
「結局、周りもあまり面白くなかったみたいなのよね、若い女がしゃしゃり出て活躍すること。まあ、もうそんなに若くもないんだけど。女だって、男と肩を並べて働けるって思ったから……あの会社が好きだったのに」

「……今の仕事は? 変わったんでしょ? 部署」

 酔っ払った時に私は一体どこまで自分の身の上話をしてしまったんだろう? 彼に言った覚えのないことまで知られていて、ちょっとびっくりする。

「今は……前とは少し違うかな。なんていうか、みんな同じ目線で、誰が上で誰が下で、とかも無くて。自由に意見を出し合える雰囲気よ」
「じゃあ萌子さん、今は働きやすいんだ?」
「そうね……。でも、やっぱりまだ営業部に未練もあるのよ。もう少し頑張れたんじゃないかってね。ま、でも今は目の前にある仕事を一生懸命やるしかないわね」

 そう、ウジウジしていたって仕方ない。今は新しい冷凍餃子を何としても成功させなければ。

「そっか。偉いね、萌子さん」
「べ、別に偉くなんか。普通よ普通。あなたも社会人になったらわかるわ」

 圭人は、ふふっと笑った。その顔が妙に大人びていて、不覚にもドキッとしてしまう。

「そうかもしれないね。——あ、ねえ萌子さん」
「何?」
「僕のこと、『あなた』じゃなくて名前で呼んでよ」
「……山田君?」
「いや何で苗字? じゃなくて、圭人って呼んでよ」
 ……いつか言われるだろうとは思っていたけど。そもそも彼氏以外の男性を名前で呼んだ経験がほとんど無いので、ものすごく恥ずかしい。

「け……」

 圭人の瞳がキラキラしている。ううっ、やめて! そんな捨てられた仔犬みたいな目!

「けい、と……」

「よくできましたー」
 圭人はそう言って笑うと、私の頭をポンポンと撫でた。恥ずかしさレベルがMAXに達する。
「お、大人をからかうんじゃないっ!」
 真っ赤な顔で反抗する私に、圭人はお腹を抱えて笑った。
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