恋と、餃子と、年下男子

告白

 八月も間もなく終わる。
 夕方になると、カナカナカナ……と(ひぐらし)の鳴く声が聞こえてくるようになった。
 夏の終わりはいつだって、少し寂しいのはどうしてだろう。秋には秋の、冬には冬の良さがちゃんとあって、それなりに楽しんでいるのにもかかわらず、だ。夏の終わりだけは違っている。今年は特に。
 
「あー、いい風ー。萌子さんもおいでよ」

 狭いベランダから外を眺めている圭人に呼ばれる。餃子プロジェクトが一段落着いてから、私はなるべく定時に仕事を終え、足早に家へと帰るようになった。
 圭人に誘われるがままベランダへと出る。二人で並ぶには、このマンションのベランダは少し小さすぎる。

「はい。どうぞ」
 圭人の隣に並び、ノンアルコールチューハイを渡す。ふわふわした髪が、夕方の風に靡いている。五階ではさほど良い眺めとは言えないけれど、通り抜ける風はなるほど、心地良い。
「ありがとう! って何だ、ノンアルかー」
 残念そうな顔をして圭人が笑う。
「当たり前でしょ? まだ未成年なんだから」

 ——未成年。
 自分で口にしたその言葉が、ことの他、重くのしかかった。
 圭人はどうしたって未成年で、私より十二歳も年下だ。いつまでもこんな関係を続けていいわけがない。ひと夏の、癒しの時間だったと思うしかないのだ。

「ちぇっ。あ、ねえ萌子さん、知ってる? 今年から成人年齢引き下げられたの」

「飲酒は二十歳からなのは変わらないから」

 ぴしゃりと言い返すと、圭人はまたもや「ちぇー」と言って唇を尖らせた。小さな子供みたいで何だか可笑しい。プシュ、とノンアルチューハイのプルタブを開け、二人並んで飲んだ。甘ったるい味はただの炭酸ジュースだ。でも、圭人と飲むならこれが丁度良い。
 
「——僕、今度の日曜に出ていくね」
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