恋と、餃子と、年下男子
ーーーーー圭人sideーーーーー
ごめん、応えられない——。
そう言い残して、萌子さんは部屋を出て行ってしまった。しばらく呆然としてしまった後で、追いかけなきゃ、と慌ててベランダから室内へと戻る。突然好きだなんて言って、驚かせてしまった僕が悪い。こういうのは勢いで言っちゃ駄目なのに。だから僕は萌子さんに子供扱いされてしまうんだ。
スニーカーを履き、玄関の扉を開けると、誰かとぶつかりそうになった。
「わっ⁉︎」
「おっと! あっぶね……」
扉の外にいたのは、萌子さんの元彼——飯島貴之だった。何しに来たんだ? 今さら。
「あれ……。ここ、本多萌子の家、ですよね?」
表札を見りゃわかるだろう。
「そうですが。どちら様ですか?」
飯島貴之がどういう男で、萌子さんに何をしたかも知っているが、当然僕は何も知らないふりをする。
「どちら様って……。こっちのセリフなんだけど」
飯島はボソリとそう呟いた。全部聞こえてるぞ。
「飯島といいます。萌子の同僚で、一応恋人です」
恋人? 元恋人の間違いだろう。適当なこと言いやがって。
「君こそ、どちら様? 萌子とはどういう……?」
「僕は山田圭人です。事情があって、しばらく萌子さんの家に置いてもらってます」
「えっ、萌子ん家に? 一緒に住んでるってこと?」
「はい」
もうタメ口か。萌子さんの元彼だからあまり悪く言いたくないが、なかなか失礼な男だ。別れて正解ですよ、萌子さん。
「マジか……。君、歳はいくつ?」
「十八ですが、来月には十九になります」
僕は嘘なんかつかない。真っ直ぐに飯島を睨みつけてそう答えると、何が可笑しいのか彼は笑いを堪えきれないといった顔をした。
「じっ、十八! ヤッベ……終わったなアイツ……」
「はい?」
よくわからないことをブツブツと言っている。気味の悪い男だ。
「いや、こっちの話。ていうか、あいついないの?」
「萌子さんなら今はいません。何かご用でしたら、僕が伝えておきますけど」
「いや、いないんなら出直すわ。大した用事じゃねえし」
完全に僕を見下した口のきき方に、彼の人間性が透けて見える。これが営業部のエースだとしたら、あの会社もなかなか人を見る目が無いということだ。
飯島は、「これ、萌子に渡しといて」と言って僕に紙袋を預けると、去って行った。袋の中には見るからに安いワインが一本と、「社長賞おめでとう」と書かれたカードが入っていた。こんなもの、毒でも入っていたら大変だ。僕はワインの栓を抜くとそれをキッチンのシンクに全て流し、空き瓶とカードを紙袋に入れ直した。後で、ゴミ置き場に持って行こう。
それより、早く萌子さんを追いかけないと。そう思った矢先、今度は僕のスマートフォンが鳴った。ディスプレイに表示された名前を見て、僕はため息をつく。僕の夏休みも、これで終わりか——。覚悟を決め、通話ボタンを押した。
「——はい、圭人です」
ごめん、応えられない——。
そう言い残して、萌子さんは部屋を出て行ってしまった。しばらく呆然としてしまった後で、追いかけなきゃ、と慌ててベランダから室内へと戻る。突然好きだなんて言って、驚かせてしまった僕が悪い。こういうのは勢いで言っちゃ駄目なのに。だから僕は萌子さんに子供扱いされてしまうんだ。
スニーカーを履き、玄関の扉を開けると、誰かとぶつかりそうになった。
「わっ⁉︎」
「おっと! あっぶね……」
扉の外にいたのは、萌子さんの元彼——飯島貴之だった。何しに来たんだ? 今さら。
「あれ……。ここ、本多萌子の家、ですよね?」
表札を見りゃわかるだろう。
「そうですが。どちら様ですか?」
飯島貴之がどういう男で、萌子さんに何をしたかも知っているが、当然僕は何も知らないふりをする。
「どちら様って……。こっちのセリフなんだけど」
飯島はボソリとそう呟いた。全部聞こえてるぞ。
「飯島といいます。萌子の同僚で、一応恋人です」
恋人? 元恋人の間違いだろう。適当なこと言いやがって。
「君こそ、どちら様? 萌子とはどういう……?」
「僕は山田圭人です。事情があって、しばらく萌子さんの家に置いてもらってます」
「えっ、萌子ん家に? 一緒に住んでるってこと?」
「はい」
もうタメ口か。萌子さんの元彼だからあまり悪く言いたくないが、なかなか失礼な男だ。別れて正解ですよ、萌子さん。
「マジか……。君、歳はいくつ?」
「十八ですが、来月には十九になります」
僕は嘘なんかつかない。真っ直ぐに飯島を睨みつけてそう答えると、何が可笑しいのか彼は笑いを堪えきれないといった顔をした。
「じっ、十八! ヤッベ……終わったなアイツ……」
「はい?」
よくわからないことをブツブツと言っている。気味の悪い男だ。
「いや、こっちの話。ていうか、あいついないの?」
「萌子さんなら今はいません。何かご用でしたら、僕が伝えておきますけど」
「いや、いないんなら出直すわ。大した用事じゃねえし」
完全に僕を見下した口のきき方に、彼の人間性が透けて見える。これが営業部のエースだとしたら、あの会社もなかなか人を見る目が無いということだ。
飯島は、「これ、萌子に渡しといて」と言って僕に紙袋を預けると、去って行った。袋の中には見るからに安いワインが一本と、「社長賞おめでとう」と書かれたカードが入っていた。こんなもの、毒でも入っていたら大変だ。僕はワインの栓を抜くとそれをキッチンのシンクに全て流し、空き瓶とカードを紙袋に入れ直した。後で、ゴミ置き場に持って行こう。
それより、早く萌子さんを追いかけないと。そう思った矢先、今度は僕のスマートフォンが鳴った。ディスプレイに表示された名前を見て、僕はため息をつく。僕の夏休みも、これで終わりか——。覚悟を決め、通話ボタンを押した。
「——はい、圭人です」