恋と、餃子と、年下男子
 ナベさんに連れてこられたのは、談話室と書かれた小部屋だった。まあ、とりあえず座って、と促される。

「お話って何でしょうか?」
 こんなふうにあらたまって話をされるなんて、異動してから初めてだ。冷凍餃子チームはいつだってオープンに、言いたいことを言い合ってきた。
 ナベさんは困っているような顔で、私から視線を数秒逸らした後、覚悟を決めたように再び私に向き直った。

「実は、冷凍餃子なんですが、販売開始直後から想像以上の反響があり、現在急ピッチで追加製造しています」
「えっ、本当ですか⁉︎ 『餃子ルーレット!』が⁉︎」

 私たちが開発した新商品、その名も『ホットプレートで簡単! 餃子ルーレット!』は、久保君一押しだったロシアンルーレットの要素を取り入れ、どれか一つに異なる種類の餃子餡を入れることにした。その味が気に入ってもらえれば、次はその味を購入してもらえるだろう、という作戦だ。

「はい。広報課によると、SNSでもかなり『バズって』いる、とのことで。バズはライトイヤーしか知らないので、ちょっと意味がわからないのですが……」
「めちゃくちゃ反響があった、ってことです。多分」
「ああ、なるほど」

 ナベさんは照れるように笑った。ていうかそんな喜ばしいニュース、なんでわざわざこんな所に呼び出して伝えるんだろう?
「それで、社長から直々に通達がありまして。我が冷凍餃子チームを、週明けの定例会で社長賞として表彰したい、と……」
「ええっ! す、すごいじゃないですか、それ!」

 アクロス・テーブルでは、半期に一度全社員が一同に集められ、成果の報告や優秀社員の表彰なんかが行われる定例会が開かれる。中でも、社長の独断と偏見で贈られるという社長賞は滅多にもらえるものではなく、これを受賞すると社内的にはかなり、いや、相当、一目置かれる。貴之の言葉を借りるならば、「一夜にして勝ち組」なのだ。それを冷凍餃子チームが表彰されるだなんて、入社以来の衝撃だ。
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