恋と、餃子と、年下男子

「だっ、だっ、だれ⁉︎ あなた、どこから入ったの⁉︎」

 自分があられもない姿になっていることすら忘れて、私はベッドから飛び出すと彼と距離を取る。

「えー、酷いな萌子さん。覚えてないの?」
「な、何をっ⁉︎ ていうか何で名前知ってるの⁉︎」
 男は、参ったなーと呑気に言いながら、ベッドから出ようとする。
「ち、近寄らないで! 警察呼ぶわよ! ていうかパンツ履きなさい!」
 彼は、え? という顔で自分の下半身を見ると、慌てて床に落ちたパンツを拾って履いた。今さら恥ずかしがっているけど、もうバッチリ見た。

 ちょっと待って。落ち着け萌子。状況を整理するんだ。
 昨夜、公園で酔っ払ったところまでは覚えている。誰かと話したような……。そうだ。私に話しかけてきた男の子がいた気がする。でも、何がどうなってこうなってるわけ⁉︎

「萌子さん、僕のこと思い出した?」
 男は無垢な目を私に向ける。
「……少しだけ。あなたと公園で会って……」
「そうそう」
「その後……どうしたんだっけ?」
 男は笑った。
「やだなぁ、萌子さん。自分で言ったんじゃない。『今夜はそばにいて』って」
 はあああ⁉︎ 「今夜はそばにいて」だ⁉︎
「わっ、私がそんなこと言うわけないじゃない!」
「可愛かったなあ、昨夜の萌子さん。……結構、積極的なんだね」
「——⁉︎」
 ななな何言ってんのこの子⁉︎
「あ、ねえ萌子さん」
「なに⁉︎」
 男は少し遠慮がちに私に聞いた。
「時間、大丈夫? 今日も会社でしょ?」
「え⁉︎」
 彼に言われ、はたと時計を見ると既に八時を回っている。
「やばっ……!」
 私は慌てて洗面所へ駆け込み、シャワーをザッと浴びるとマッハで身支度を整えた。その間、男は呑気にふああと欠伸をしながら、ベッドの上から私を眺めている。まだ言いたいことは山のようにあるけど仕方ない。とりあえず会社だ!
「とにかく! さっさとお家に帰りなさいよ⁉︎ いいわね⁉︎」
 そう彼に言いながら、私は玄関の扉を開ける。
「行ってらっしゃーい、萌子さん」
 彼はベッドの上から、ひらひらと手を振って笑ってみせた。行ってらっしゃいじゃないわよ! ていうか、積極的ってどういうこと⁉︎ まさか私、やっちゃった……⁉︎
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