恋と、餃子と、年下男子
「あー、それは完全にやっちゃったわね」

 ——昼休み。社内のカフェテリアでランチをとりながら、同期の梅澤(うめざわ)梨紗(りさ)に今朝の出来事を報告した。梨紗は企画部広報課に所属している。美人な上、その竹を割ったような性格で上からも下からも信頼されている。私が社内で唯一何でも話せる、親友でもある。

「まさか萌子が若い男を拾ってくるなんてねぇ。しかも彼氏にフラれたその日に?」
 梨紗がしみじみと言う。
「いや自分でも信じられないよ……」
「どんな子なの? その拾った彼」
「あんまり大きな声で拾った拾った言わないでくれる?」
 人聞きが悪い。いや実際、拾ってしまったんだけどさ。
「それが……。とりあえず若いことだけは確かなんだけど……。名前も年齢も、素性もわからないの」
 今朝も、パニックになりすぎて彼のことをちゃんと見ていなかった。意外に逞しかった胸元を思い出し、私は慌ててその記憶も振り払う。
「で、彼とヤッちゃったんだ?」
「はっ⁉︎ いや何もしてないから!……多分」
 あの男の子はともかく、私は一応、布は(まと)っていた(かろうじてだけど)。

 ふうん? と梨紗がニヤニヤしている。
「ま、でもいいんじゃない? 貴之君のこと忘れるには新しい恋が必要よ?」
「だ、誰があんな若い子と! だいたいね、貴之のことなんて秒で忘れたわよ。それに今朝の男の子にも出ていくよう言ったから、もう会うこともないわ」
「えー、そうなの? 残念。あたしも会ってみたかったなー。萌子が拾った彼にっ」
「梨紗……あんた、他人事だと思って面白がってるでしょ⁉︎」
 ケラケラと梨紗が笑う。品の良い香水がふわっと香る。
 
 もう会うこともない、と自分で言っておきながら、私は一抹の不安に駆られる。果たして彼は、ちゃんと家に帰っただろうか……?
 行ってらっしゃーい、と手を振った姿を思い出す。寝癖だらけの柔らかそうな髪。逞しい胸板。気の抜けた笑顔。逞しい胸板。

……駄目だ。
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