恋と、餃子と、年下男子
「やっぱり、他社には無いインパクトが必要だと思うんだ」
 渡辺さんが切り出す。
「インパクトって例えば? 味とか?」
「……ロシアンルーレット的な」
 薬師寺……じゃなくてヤッシーが答え、久保君が呟いた。ロシアンルーレットはどうかと思うぞ。
「モエモエさんはどう思う?」
 ふいに渡辺さんにあだ名(でも一応さん付けだ)で呼ばれ、驚いてしまう。
「そうですね……。まずは、ターゲットを誰にするか、ですかね。ほら、家族なのか、独身者なのか、とか」
 三人が「おー!」と声を上げる。いや、そんな大したこと言ってないんだけど……。
 

 ざっくばらんなミーティングは一時間かからない内に終わった。

「うちは堅苦しい会議はしないからねえ。ミーティング中じゃなくても、思いついたことがあればいつでも言ってくれていいからね」

 渡辺さんが優しく微笑む。営業部じゃ考えられない。ミーティングはダラダラと長かったし、意見を言わないと刺すような視線が痛かった。菜々はニコニコと笑ってごまかしていたけれど、私はみんなについていこうと必死で会話に参加していた。
「ありがとうございます、渡辺課長」
「やだなぁ、僕のことは『ナベさん』でいいよ。誰も課長だなんて呼ばないし」
 そういうもん? と思っていると、
「えっ、ナベさんて課長だったの⁉︎」とヤッシーが大きな目を丸くした。
「ほらね?」
 渡辺課長、もといナベさんはそう言って苦笑した。何だかいろいろカルチャーショックはあるけど、今はここで頑張るしかない。
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