鍵の皇子と血色の撫子
「忘れられるわけないじゃないですか。わたしが逢いたかった聖岳さまは、ふたりいるんです。金髪青目の聖岳さまと、黒髪赤目の悪魔のような――ガクさま、彼方です」

 第三皇子はかの国の命運を握る鍵の皇子と呼ばれている。
 その真実は、かの国に外つ国の悪しきモノを封じるための鍵として、生まれながらに悪魔と契約しているというもの。
 国民が異形の皇子だと畏怖するのも当然のことなのである。
 そして皇子の鍵穴――悪しきモノを封じきれない際の防壁として、撫子は選ばれた――花嫁とは名ばかりの、生け贄である。

「あいつは血色の撫子姫などと揶揄されるお前を憐れんで婚約をつづけるような悪い男だが、お前の方も一筋縄ではいかないな」
「これでも叔父の件以来おとなしく過ごしているのですよ」
「海外遊学中に起きたことについては俺は関与していないし、できなかった。あいつもそのことを理解しているから撫子を手放せないんだろう」
「ガクさまに封じられない悪しきモノを押さえ込むのがわたしの役目です。たとえ何があっても起こってもそれは変わりません」
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