鍵の皇子と血色の撫子
 叔父が憑かれたモノは外つ国から入ってきたわけではない。あれはもともと神官一族が御すべきモノ。叔父が封じていた鬼がなんらかのはずみで彼の身体を乗っとり、国の最高権力者である帝に刃を向けたというのが事件の真相である。
 撫子自身がつかえる能力はないが、彼女は神官一族のなかでも特殊な体質を持っており、悪しきモノから傷を負うことでちからを霧散することができた。
 あのときは、憑いていた鬼を再び封じ込めるため、その場にいた撫子を襲うよう叔父を唆し、鬼を無力化したのだ。正気を取り戻した叔父は可愛がっていた姪の血まみれの姿に絶望し、自分が取り返しのつかないことをしたと素直に懺悔した。そしてそのまま処刑された。最後まで撫子のことを気にかけながら。
 撫子が己の身を差し出し、叔父を正気に戻したことで被害を最小限に留めたことを知るのは彼女の両親と帝、それから聖岳と壱畝の五人だけだ。

「撫子は正しいことをした。あいつは鍵穴の真の役割を知って、お前とどう関係を培えばいいのか戸惑っているだけだ」
「だから距離を置かれたのですか?」
「それだけじゃねぇよ」
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