鍵の皇子と血色の撫子
「撫子。なんて愛らしい皇子の鍵穴姫――幸せにしてやるからな」
「っ……!」

 ガクに抱かれながら愛を囁かれた撫子は彼に求められるがまま、身体を預けていた。
 ひとつになった鍵とその鍵穴は、その夜、愛を施錠する――……


   * * *


 かつて、聖岳が契約している悪魔には姿も名前がなかった。
 幼い頃から自国を守る鍵の皇子として、悪魔という概念と共存はしていたが、彼が現れるのはもっぱら悪しきモノの気配に気づいたときか、魔術師の薬によって召喚されたとき、聖岳の身体が危機に陥ったときくらいで、とくに日常生活を送る上で困ることもなかった。悪魔も幼い聖岳のことを単なる宿主としか思っていなかったからだろう。
 けれど、ふたりが鍵の皇子として己を自覚したその日以来、悪魔は真実の姿――黒髪赤目のもうひとりの聖岳の姿――を手にいれた。そして「ガク」という名前を、撫子につけてもらったのだ。
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