鍵の皇子と血色の撫子
 聖岳とガクは、ふたりでひとりの少女を守るため、共闘するようになったのである。のちに血色の撫子姫などと呼ばれるようになる婚約者を。

「白鷺宮撫子と申します」

 父である帝によって選ばれた許嫁は鍵の皇子の唯一の鍵穴となる女性だと説明された。
 聖岳は信じられないと黒髪黒目の美少女を見つめていた。鍵穴――それは女性器の隠語でもある。彼女は自分と悪魔の生け贄に選ばれた憐れな少女なのだと悟ってしまった。
 だが、神官一族の末裔で、生まれつき悪しきモノを無力化する体質を持つという彼女は、聖岳の身体に棲む悪魔の存在のことを知らされていなかったらしい。
 けれど聖岳少年は知っているものだとばかり思ったから、悪戯っぽく問いかけたのだ。

「貴女は僕の真実の姿をご存じですか?」

 ――と。


   * * *


 薬の効果は朝になるまでつづいていたらしい。
 途中から記憶が曖昧になっていた撫子が気だるげに身体を起こせば、金色の髪に青い瞳の聖岳が心配そうな顔をしてこちらの様子をうかがっていた。

「ガクの奴、本気で姫を貪りやがって……」
「聖岳さま? ガクさまは」
「撫子姫。身体は大丈夫ですか」
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