鍵の皇子と血色の撫子
 これ以上彼女を抱いたら、壊してしまうのではないかと危惧する聖岳を前に、撫子は無邪気に誘惑する。

「いいえ。ガクさまは聖岳さまにも愛してもらえとおっしゃってました。わたしはふたりの鍵皇子を平等に愛したいのです」
「――姫」
「はじめてお逢いしたとき、ガクさまには概念しか存在していませんでしたよね。わたしが名前をつけたから、黒髪赤目のガクさまが聖岳さまの真実の姿として現れたんです。あれから何年も経ったのに、ガクさまは聖岳さまと一緒にいるんだなと安心しました。血色の撫子姫なんて呼ばれるわたしをいまも大切な鍵穴として求めてくださって、嬉しかった、です」
「撫子姫。貴女は血に染まってなどいない。僕たちの方が裏でもっとひどいことをしている」

 そういえば、ガクも「周りを黙らせて」云々と物騒なことを口にしていた気がする。
 きょとんとする撫子に、なんでもないよと聖岳は淡く笑う。

「聖岳さま?」
「……けど、それよりいまは貴女が欲しくてたまらない。ほんとうに、いいんだね?」

 朝になって金髪青目の鍵の皇子に求められた鍵穴の姫君は、頬を赤らめながら素直に頷く。
 はじまりの合図はやさしい口づけ。
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